top of page
検索
yamakanakanro

装幀は加工オプションの使い倒し、そして反省の繰り返し

 印刷オプションが好きだ。

 基本セットじゃ物足りない。


 25年来の馴染みの印刷所でしか刷ったことがない野間みつね(千美生の里)だが、最初に作った本から今に至るまで、入稿する際、基本セットに加工オプションを付けない本はほぼない、という有様だ。

 無料配布冊子にでさえ、基本セットにないオプション加工を上乗せしてしまうことが少なくない。

 そのせいか、どうやら印刷所の方でも「ほぼ必ずオプション付ける人」と認識してくださっているらしい……(汗)

 なので、拙サークルのどの本も、装幀には拘っている……と言えば言えるのだが、その全てを登録するわけにも行かない。よって、この「装丁まとめ企画」さんには、中でも頭抜けて「コダワリ」の強い本6冊のみでエントリーしている。

 それぞれどんな装幀かという簡単な(?)データは「参加作品一覧総まとめ」に提供済みなので、そちらを御覧いただくとして、此処では、6冊の内から更に4冊に絞って、その装幀に託した「コダワリ」や、納品された完成品を見て項垂れた「反省点」などについて語ってみることにしたい。


 なお、本記事内で記載するページ数は、特に注記がない限り全て「表紙込み/扉や見返しや遊び紙はページ数に含まないが、中途の各編扉は含む」である。


 

 2004年の大河ドラマ『新選組!』に登場する伊東甲子太郎《いとう かしたろう》先生が好き過ぎて、放映の翌年に出した追悼冊子。ドラマでは語られなかった隙間を想像で埋めた作品などを収録。

 リンク先のWebカタログ辺りの書影では殆どわからないと思うが、表紙が2色刷である。黒基調の紙(新・星物語のクロウ)に、1色目が赤(朱)、上から銀。銀インクだと下の色が透けない為、狙い通りの状態で仕上がってきた。



 この冊子では伊東先生暗殺の前後を描いているので「月影の届かぬ闇に潜む惨劇」のイメージであった。


 反省点は「本文の字が小さくなった」こと。ワープロ専用機からパソコン(ワープロソフトは一太郎)に移行して余り経っていない頃に作成した紙原稿(印刷所の原稿用紙に印刷)で、仕上がりの感覚がまだ掴めていなかった。次に出した本では適切な文字サイズに出来、以来、現在の大きさに落ち着いている。


 

 個人サークル活動20周年の2015年に出した292ページの自選蒐。短編・中編は丸ごと1本、長編は章または節を丸ごとひとつ(または連続した幾つか)、それらを時系列で収録。最後の短編は書き下ろし。



 所謂「コダワリ」が色々と潜んでいる本なので、その幾つかを紹介する。なお、この本では、拙サークルカラーの「青(可能な限り濃青色の系統)」と「黄(山吹色まで可)」を装幀の基調にしている。


・表紙に何の変哲もないタイトル箔押し

 黄色に近い金色で。……本当は文字を散らしたかったのだが、そうすると箔押し面積(或いは個数)が大変なことになる(=費用が跳ね上がる)ので、無難なレイアウトにせざるを得ず(苦笑)。

 ただ、今では、下手に奇抜なレイアウトにしなくて良かったな、と思っている。

 何の変哲もない……のに何故特に挙げたかというと、これが私の初の金の箔押しだったから(※銀の箔押しの経験はあった)。銀に比べて金の箔は凄く強いなあ……と感じたことを覚えている。後に『魔剣士サラ=フィンク』のフルカラーカバーへのタイトル箔押しに銀ではなく金を選んだのは、この時の印象差が大きい。


・見返しに藍色のミランダを使用、銀インクで印刷したのは……

 きらきらしい紙であるミランダの上に、敢えて、自己主張の弱い銀インクを使用。



 ……実は此処には、自選蒐本文には採用しなかった(出来なかった)、主として、色んな意味合いで「何となくヤバそうな」場面の断片を自選して貼り付けまくってある。むっちゃ拘った部分だけど、下手に目立っちゃ駄目な部分でもあるのだ(爆)。


・扉の「イエロー+紺インク」は、原点の色使い

 今もお世話になり続けている印刷所で最初に作ったのが、2色刷の色合を確かめる為の便箋だった。その際に使った組み合わせを再現。ただ、便箋と同じ色上質(アイボリー)を扉にするのは流石に憚られた為、岩はだ(これも初期に使用頻度の高かった特殊紙)で似た色合のもの(こひき)を使用。

 印刷所からは一度「この紙色だとイエローの印刷が殆ど見えません、インクを他の色に差し替えた方が良くないですか?」という趣旨の打診が来たが、この色の組み合わせであることに意味があった(ついでに言えば、うっすら背景模様として見える程度で良かった)ので、そのまま進めていただいた。仕上がりは望み通りだった。


・区切り箇所で紙替

 何処からでも摘まみ食い出来るよう、各編の扉を色上質(濃クリーム)に差し替えて、天地や小口側から見た目での当たりを付け易くした。



 後にわかったが、これが出来たのは、ペラ丁合《ちょうあい》の本だったから。糸かがり綴じ製本の『魔剣士サラ=フィンク』では不可であった……。


 反省点は「重めで硬めな本」が出来てしまったこと。厚みを抑えるつもりで、普段使用しているコミック紙(白色だが光沢感がなく目には穏やか、何より軽い!)ではなく書籍用紙(淡クリーム琥珀N)を本文に使用したところ、まぁこれが普段作ってる本に比べて重い重い重い(汗)。しかも、見返しや扉に使用する特殊紙の目(T目(縦目)とかY目(横目)とか)を全く意識していなかった為、Y目で取られた紙が当たった本は、見返しや扉が若干めくりにくい個体になってしまった。

 この時の反省が、次の『魔剣士サラ=フィンク』で活かされることになる。


 

 呪わしい魔剣を操る青年魔道士と亡国の元王女との旅の途上で起こる事共を描いた長編ファンタジー。

 言わずと知れた、拙サークル随一の「超鈍器」である。820ページ上製本、背幅4.7cm(……ミリじゃないよ、センチだよ!)、重さ1,090g。



 単巻で読み切れる作品にしたい、という我儘から、このページ数になった。……誰だよ「300ページ超えは確実、ひょっとして400ページ行くかも?」とか呑気なことをほざいてた奴は(汗)。

 こちらは『はたとせ』以上に色々と拘っており、全てを列記すると大変なことになってしまうので、ほんの一部のみ紹介しておきたい。


・表紙のタイトルロゴは怪我の功名

 カバーを外してもらえればわかるが、本体表紙(後掲)ではこのタイトルロゴは使われていない。

 このロゴは、フルカラーカバーへの箔押しを依頼したところ、「魔」の字の隙間が狭過ぎて(汗)箔が巧く行きそうにないので間隔を広げてほしいという連絡が来て、「ええい隙間があればいいんだな隙間がっっ!」と思いっ切り「魔」の字を大きくし、ついでにバランスを取りながら他の字の大きさを変えたり組み合わせたりして出来た代物。……なので、既に締切を過ぎて製作工程に入っていた本体側の表紙には使われていないのである(汗)。

 なお、まだ作業に入っていなかった扉の方の原稿は、ロゴ使用版に差替させてもらえた(平伏)。

 あと、思いっっっ切り「魔」の字を大きくしてロゴに仕立てた結果、印刷所の箔押し料金表にない規格外のサイズになってしまい、費用が……(トオイメ)










・カバー裏に作品世界の地図

 カバーを外したついでに、カバー裏も御覧いただければと。

 本の中では見開きで収録するしかなかった作品世界の地図を、継ぎ目なしで印刷してある。万が一にも表側に響かないよう、金赤インクで印刷。本体側で入稿後に発覚した文字レイアウトミスも、しれっと修正済。フルカラーカバーは、箔押し原稿の作り直しで、少しだけデッドラインが延びたからね(汗)。

 これ、写真は載せないので、拙作をお持ちの方は購入者特典としてお愉しみを(笑)。


・重くない紙! そしてT目! とにかくT目で!!

 本文は、印刷所の基本用紙(めっちゃ軽いが白くて厚い or 淡いクリーム色だがひたすら重い)を使わず、全て、軽くて薄くて裏透けが少ない書籍用紙であるメヌエットライトCの55kgに差替。印刷費用の内、各種オプションの中で最も高額になったのが、この本文用紙全差替である(苦笑)。

 そして、めくりにくい厚い本なんて読み手のストレスにしかならないからと、本文のみならず扉の特殊紙も見返しの特殊紙も含めて、とにかく全てT目で取ってほしいとお願いした(間に挟むトレペ遊び紙のみ、Y目が混じっても構わないとした)。T目縛りだと所謂「経済的な」取り方が出来ないから当然に費用が余分に掛かってしまうのだが、こんなん出せるの一生に一度だろうし後悔したくないから少しでも読み易くなるように、と採算度外視で臨んだ次第。……いや、普段から採算度外視なんだけど、これは普段とは桁が違う(※文字通り(汗))話だったからなー(汗)。

 おかげで、見た目ほどには持ち重りしない、めくる時にもストレスの殆どない一冊に仕上がってくれた。


・本体表紙は擬似3色刷

 お世話になっている印刷所は、昔は特色インクや3色刷にも対応してくださっていたが、今は、指定の基本色での2色刷まで。なので、赤と墨のインクによる2色刷のベースに、癖になる手触りの特殊紙ミニッツGAのライトグレーを用いることで、地色のグレーとインクの赤が掛け合わさって透明感の乏しいくすんだ赤になってくれることを狙った。



 出来上がりでは紙の地色は殆ど外に見えないが、赤じゃなくてライトグレーなのよ、この紙(笑)。

 ……なお、ロゴを作る前のタイトル文字がどんな風だったかも、この写真で丸わかりになる。確かに「魔」の隙間が狭いよね(汗)。


 反省点は……山のようにあるが……特に、トータル・プロローグとトータル・エピローグでの2色刷……古い紙に印刷された感を出したいと狙ってセピア+墨の2色刷にしたものの、あそこまでセピアが濃く出るとは予想していなかった……暗い場所だと本文が読みづらいではないか……(泣)

 目次ページも、うすーく印刷したイラストの上に黒い文字が乗っかる……のイメージだったのに、これまたセピアが強くて上の文字を食ってるし(大泣)。

 勿論これ、ぶっつけ本番でやった装幀ではなく、事前に刊行準備冊子で書籍用紙(淡クリーム琥珀N)にセピアと墨の2色刷を試して色の出具合を確かめてみてから敢行したのだが、薄い紙への印刷でお互い裏面に響いてしまったのか……いや、用心の為に、もう少し原稿の濃さを落としておくべきだったな……(嘆息)


 

 

伊織(兎角毒苺堂)さん、くまっこ(象印社)さん、コドウマサコ(鏡の森)さん、島田詩子(虚影庵)さん、藤木一帆(猫文社)さん、ほた(夢花探)さん、そして言い出しっぺ野間みつねの7人で回したリレーノベル。多分ファンタジーに属する作品になると思われるが、どうなることやら……という訳で、よく「ふあんたじー」と自称している。略称DDQ。……え、略称といい表紙の感じといいロゴといい何処かで見た? それは言わないお約束(爆)。某RPGのオマージュネタとなったのは、仕上がったリレーノベルの内容も踏まえつつ、メンバー皆で合意の上である。







 なお、表紙は、裏表紙も含めて、藤木一帆さんの力作。但し、ロゴの「Q」のニョロに当たる箇所や「D」から生えている何やらなど、触手部分は、触手ブラシを見付けてしまったばっかりに「触手担当」となった、ほたさんの手に成るものである。ほたさん、何と、触手栞まで作成してくださった(爆)。……余りにも刺激が強いので、写真では栞の裏面のみをお見せする。



 因みにこの本は、A5判好きの野間みつねには珍しく、B6判。これは伊織さんの強い強い希望による。……判型が小さいとページ数が増えるんだけど、しゃーない(苦笑)。

 以下、装幀の「コダワリ」の内から2点のみ紹介しておく。



・箔押し、えっ、そこ?

 「えっ、何処に箔押し?」と目が惑うかもしれないが、ロゴの「Q」のニョロ部分を含め、付近で触手(※作品内で意外に重要な役割を果たすことになった存在)が巻き付いている部分のみ、レインボー箔を押した。レインボー箔ゆえ、どれひとつとして同じ柄の本はない(筈)。

 それほどには目立たない場所に、しれっと少しだけ箔を押す。気付いた人が笑ってくれれば、それで良い、という気持ち。……因みに、この本の書影として各所で使用している画像(最初に掲げた画像)は、スキャン画像の箔押し部分に実際の本の箔押し写真を合成して作成した特製品である。

 但し、「装丁まとめ企画」さんの一覧側には、触手箔押し部分にフォーカスした写真を掲載してもらっている。「装丁まとめ企画」さん向けサービスである(笑)。


・何だか2色刷のページが多くない?

 はい。表紙を除く本文116ページの内、64ページ分が赤と墨の2色刷。つまり、本文の半分以上が2色刷。

 「何でそんなことしたの?」と思われるかもしれないが、皆で後から展開や内容にツッコミ入れたりネタばらししたりするなら、イメージは朱入れでしょ(笑)。

 前半では作品自体を愉しめるようにシームレスで掲載し、その後ろに、誰が何処を書いたかの「答え合わせ」のページを設けたいというのが、このリレーノベルを立ち上げた時からのそもそもの企画内容だから、全く後悔はしていない。……いや、自分史上最っっ高に、2色刷原稿の作成が難しかったけどな(汗)。



 なお、実は前半のシームレス部分でも、「此処ぞ!」という箇所で2色刷にしてある。物語の山場ゆえお見せするわけにはいかないので、購入者のみお愉しみいただければ(爆)。

 あと……赤と墨って、混色の仕方によっては、ちょっと茶色に近い雰囲気の色も出せるのだ。面白かったよ(笑)。


 反省点は、2色刷で凝り切れなかった箇所があること。せめて最後の、皆のあとがき部分の赤は、墨との混色にしておけば良かったなぁと。赤インク単独だと、ちょっとパンチが弱いのよ……

 あと、後半の答え合わせとコメンタリー部分、コメントを入れる部分を空けねばならないので一行の字数を変更するなどレイアウト変更が必要だったのだが、ちょっと組版を直し切れなかった箇所が残ってしまった。気にしない人は気にしないのだろうけれど、もう少し時間があったらなあ……

 ……ってなー、テキレボ9当日に会場納品されるよう必死になって間に合わせたら、テキレボ9が台風接近で中止になっちゃったんだけどなー!! (おのれ台風……っ!)


 

 以上、ほんの一部ながら、それぞれの本の装幀や反省点など、刊行順でつらつらと綴ってみた。

 どうか、長文・乱文、平に御容赦願いたく。

 僅かでも誰かに「へえ〜、あの装幀にそんな意図や裏話があったのかぁ〜」と思っていただければ幸いである。


 ……装幀オプション、何をどう使おうかと考えてると、ホント愉しいよね(笑)。


【野間みつね/千美生の里


閲覧数:80回0件のコメント

最新記事

すべて表示

留言


bottom of page