小説同人誌について、
「中身が良ければ(口コミがブワーッと広まって)売れるはず!」
「読めば分かる!」
「さあ読んでホラ読んで今すぐ読んで!!!!!!!」
……と思っていた時代が私にもありました。ぶっちゃけ、今も思ってますが。
でも、思ってるだけじゃ売れないのはいつの時代も同じこと(たぶん)。
今では、中身の小説と同じくらい、表紙や装丁、組版など、「見た目」にもこだわるようになりました。
表紙は中身のエッセンスというか、ダイジェストというか、「こんなのです!」と一目でわかるように表現したものだとも思うからです。それが「世界観のプレゼン」仮説。
今回の特集記事では、2019年発行のSFファンタジー「星に願いを、鏡に愛を」の装丁について、詳しくご紹介します。「SF」は「サイエンスファンタジー」です。もちろん、「サイエンスフィクション」でも「すごいホラを吹いている」でも、まあなんでも構いません。
⇒ webカタログ
左が現行版(増刷分)、右が初版です。個別ページの記載とダブる部分もありますが、各版の詳細を書いておきます。
【増刷分】
表紙:アートポスト180kgにフルカラー印刷+トワイライトPP(※1)、オビ(トレーシングペーパーにフルカラー印刷)(※2)
本文:書籍用紙クリームに黒刷り、フルカラー口絵あり
印刷所:コミックモール
【初版】
表紙:ジェントル175kg(ホワイトフェイス)にモノクロ印刷、タイトル箔押し(レインボー)、オビ(トレーシングペーパーにフルカラー印刷)
本文:美弾紙ノヴェルズに黒刷り、フルカラー口絵あり(カレイド印刷)(※3)
印刷所:ブロス
※1 トワイライトPP……イチオシの偏光PP。白っぽい表紙だと上品に、暗めの表紙だとギラギラに光ります。今のところコミックモールさんでしか見たことない。
※2 オビの印刷はグラフィックさんにお願いしました。オビ幅は7cm、つまりA4サイズで印刷して、1枚からオビ3本が取れる計算です。こちらは初版も増刷分も同じです。
※3 カレイド印刷……「広演色印刷オプション」。RGB画像の広い色領域の再現が可能とのこと。詳しくは印刷所さんのページでどうぞ。
【組版】※共通(一太郎2017使用)
使用フォント:小塚明朝Pr6N 8.5pt
40字×17行
……といった具合です。
大丈夫? 文字多くないですか? 大丈夫ですよね? うん大丈夫、続けます。
この「星に願いを、鏡に愛を」初版の装丁は、これ以外にない。そう言えるだけの理由があります。
いや、「この装丁を! 盛りたかった! の!!」という駄々もありますけどね、もちろん。
増刷分は刷り数を減らしたので、その分装丁にかけられる予算も減り……次善を尽くしました。
というわけで、あらすじをご覧ください。
【あらすじ】
不治の難病に罹患したジョー。 延命のために提示されたのは義肢義体《フィギュア》化と電脳化《ミラーリング》だった。 高度に発達した科学が命を救い、娯楽を供し、未来を推論し、ヒトのあり方を変えてゆく。 予言機械が告げる未来予測に、ジョーと未来視の魔女マリ、人工の魔女たちは翻弄され、対話を試みるが……
機械が新言語を創造し、義肢義体が病を克服し、電子的に複製されたヒトがVRの街を闊歩する時代、 過去を振り返るのは誰か。今を生きるのは誰か。未来を唄うのは誰か。様相を変えた眠らぬ街に、星が降る。欲望と願望と祈りのSFファンタジー。
(webカタログより)
――このあらすじだけでは伝わる部分の方が少ないのですが、
・モノクロ印刷は、いわゆる機械言語のオンオフ、0と1。(グレスケ? キコエナイ…ナニモキコエナイ…)
・背景画像は星座のような、電脳空間(とは?)のような、繋がるニューロンのような。
・レインボー箔は、未来視の魔女が持つ七色の眼。
・トレペオビは、未来を透かし視るの意。
という、おせち料理顔負けの理由がちゃんとあるのです!!!
(いつもはこんなこと表明しませんけど、企画ならではということで)
(そういう意味では、プリントオンさんのわくわくドキドキセットを使ってみたい)
(読み手さんに、作者の意図を汲めと言っているわけではないです、念のため)
本文フォントは、いつもはUD明朝を使っているのですが(mojimo-manga 利用)、もっとシュッとしてきらきらしいフォントがいいと思い、小塚明朝にしました。……えっ、シュッとしてきらきらじゃないですか? 私にはそう見える。(アドビCCのフォトプランを利用しているので、Adobe Fontsが使えるのです。余談ですが、表紙や宣材など、画像系はすべてフォトショップで作っています)
行間の観点からページあたり16行にしたかったのですが、そうするとページ数が膨らんでしまい……。これがぎりぎりかなと思います。
口絵は、まのいさんの描く主人公たちと世界観が見たかったという欲望と、オビに主人公のお顔のアップを使う、メインビジュアルがあったほうが宣伝しやすいなど、現実的な動機です。
(なので、せっかく描いていただくのに、装画でなくてすみませんとお話しました)
(でもやっぱり、このお話の表紙はキャラクターイラストではありえないのです)
「星に願いを、鏡に愛を」を制作するにあたり有償依頼したのは、
・タイトルロゴ
・口絵
・PVのBGM
・PVのナレーション
……です。そう、外堀を埋めるための(?)PVがあるんですよ~!
このあたりでそろそろ、勘の良いかたはお気づきでしょう。
「でもそれ……お高いんでしょう??」
結論から言うと、財布が大爆発しました。私の同人活動の規模からすれば、ビッグバン級の出費でした。
印刷費以外は頒価に含めていませんし、印刷所さんの割引きを最大限利用したとはいえ、ちょっと目を疑うような支払い請求(※カード払い)(お察し)が来たので、もしこの本が売れなければしばらく遠征も新刊も無理……というくらい追い詰められました。
(そこへ台風によるテキレボ中止のお知らせが……ウオアア゙ア゙ァァッ!!!!!)
と、濁点喘ぎをしておいて何ですが、その裏側で「この本が売れないなら買い手の見る目がないのだ」などとけしからんことを考えてたりもするので、まあ複雑なお気持ち表明と思っておいてください。同人者めんどくさいね!(巨大主語)
作った側としては、もちろん後悔していません。制作をお願いした作り手さんは最高のものを納品してくださいましたし、それを編集する私の拙さが申し訳ないくらい。
初頒布から半年足らずで初版が完売し、増刷しようと思えたのには感謝しかありません!
2020年1月にバイトを始め、経済的に余裕ができてきたぞとGWの東京文フリに申し込み、それに合わせて増刷をかけ――はい、もうおわかりですね。
コロナアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッーーー!!!!
話が逸れてきたのでまとめです。
表紙や組版などを含めて、装丁は、世界観のプレゼンである。今はこう考えています。
というのは、私はいわゆるエンタメ系作品でも「キャラもの」を書くタイプではないからで、キャラクターの魅力でグイグイ引っ張ってゆく作風ではありません。
しぜん、作品紹介もぼやけがちで、自分でも「何言ってんのこのひと」と思うこともしばしばです。
だからこそ、表紙で「どんなお話なのか」「どんな場所が舞台なのか」「作風、雰囲気」をきちんと提示しないといけません。(ポスター、Twitterでの宣材に使えるとなおよい)(イラストを依頼する際はそのように使うこともお話しし、絵描きさんの了解を得ておきます)
まさかこの「星に願いを、鏡に愛を」の表紙とSFファンタジーです、の文句に対し、「ゆるふわ★アンドロイドとのほのぼの日常生活!」を想像するかたはいらっしゃらないでしょうが……。いらっしゃらない……ですよね? いたらごめんなさい、たぶん合わないです。
かように、表紙はプレゼンであり、最初の相性判断でもあると思うのです。
(実際、表紙や装丁を「同人誌の見た目」と考えていた頃に比べると、装丁にも頭を使うようになってからの方が頒布数は上がりました)
(そして、イラスト表紙がすべてじゃない! とは、何度もお伝えしたいです)
お話を転がしている途中、執筆のさなかの気分転換(現実逃避ではない、断じて)に、「このお話/人物は○○だから、表紙はこういう(ろくろ)感じにしたい」「この印刷プラン、このお話ならこう……エエ感じに(ろくろ)使えるんやないかしら」とアイデアがもんやり湧いてきたならしめたもの。逃がさないよう、しっかり繋いでおきます。
さらには、物語や登場人物のイメージカラー、特徴的なモチーフ、フレーズ、印象、雰囲気……そういった要素を組み合わせて、物語をプレゼンできれば、と思っています。
たとえば、海や空のお話で「青」がイメージカラーなのだとすれば、
・それは表紙用紙の色か/本文用紙の色か、遊び紙か
・印刷色を青にする(表紙/本文)
・青いものを載せる、青い画像を使う
・ふつう青くないものを青く加工して載せる
・青の箔押し
・ワンポイントで青色(唇、眼、宝石など)を使う
……と、ぱっと思いついただけでこれだけできます。もっと他にもあるでしょう。
普段から商業本や、商品パッケージを注意して見ておくと良いかもですね。私は見る。めっちゃ見る。あっ、もちろん、ひとさまのご本もめっちゃ見ます!
\まとめ企画さん有り難うございます!!/
そういえば、去年の「ポケれぼ」(テキレボのネットプリント企画)の際に発行した、装丁にまつわる雑記と実例を掲載したフリーペーパーをBOOTHに置いています。BOOTH(pixiv)のアカウントがあれば無料でDLできますので、よろしければご覧ください。
なお、表題を「世界観のプレゼン」としたのは、私が世界観を重視する書き手だからです。
登場人物の人となりも重要ですが、そのひとがどこで、どんなふうに、何を食べて、どのように暮らしているかがなければ「ひと」はないと考えているので(※エンタメ作品の話です)、その下地を通じて物語を展開したいのです。
人物重視の書き手さんであればキャラクターのイラストがメインになるでしょうし、それは書き手さんによって異なりますが。
「中身が良ければ(口コミがブワーッと広まって)売れるはず!」
を実現するためにも、最初のハードル「手に取ってもらう」を越えられる本づくりができると良いですね。がんばりましょう。がんばります。
最後に、「星に願いを、鏡に愛を」納品時の喜びの画像をご覧ください。
(Twitterで「ほしかが」ハッシュタグ検索していただくと、こぼれ話、いただいたご感想など関連ツイートが出てきます)
(凪野基/灰青)
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