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文芸本の表紙を編むときに考えること

こんにちは。別館1617と申します。別館1617はサークル名かつ自分の作ったものを発表するプラットフォームの名前にもなっています。ひとり同人出版レーベルのようなものです。


このたび、長編小説を初めて本にしました。『狐のいない海』と言います。本エントリではこの本の装丁……といいますか、表紙について紹介していければと思います。


表紙を編む

まずは書影。ばばん。


「狐のいない海」とは何のことなのか、はぜひ本編をお読みいただければと思うわけですが、表紙は狐(生物)と海と九尾の狐(妖怪)をモチーフにして編みました。


表紙いっぱいに広がっているうにゃうにゃとしたものは、波・九尾のしっぽ・光などさまざまなものから連想しています。


冬の海のような色をベースにして編みたいなと思い、鎌倉を拠点にされている染色 & つむぎの「ひつじや」さんから海の色をした羊毛を買いました。はい、毛糸ではなく羊毛です。市販の糸ではあまりイメージに沿うものがなかったので、糸を作るところからはじめました。


羊毛をくるくると紡ぎまして、まず単糸と呼ばれる最もシンプルな糸にします。わたしはサポートスピンドル(supported spindle)というタイプの道具を使っています。コマ回しみたいで楽しいですよ。


単糸ができましたら、続いてそれを2本もしくは3・4本に撚り合わせて双糸という状態の糸にします。ねじねじとかせにまとめたら一緒にお風呂に入ります。40度前後のお湯を張った洗面器に30分ほど浸けておくと、撚った状態で繊維が固定されて立派な糸になるわけです。こうやってできあがったものをちまちまと編みました。


つづいては左上で見切れている狐です。これが難題でした。同じくひつじやさんの羊毛を紡いだもので編もうと思ったのですが何度やり直してもしっくりこない。頭を抱えていたある日、たまたま入った100円ショップで何となく買った「わたあめ」という糸が解決してくれました。白ベースにほんの少しだけカラーが混じっているのが、すでに編んであったうにゃうにゃとちょうど相性が良かったのです。


こうしてできたうにゃうにゃ(しっぽ・波)と狐を、敢えて西日が差している状態で写真に収めました。というのも『狐のいない海』に出てくる場所のうち、狐と関係が深いのが三浦半島の西海岸側にある浜辺だからです。西日によってできた濃い影をある程度残す形でレタッチを行って表紙としました。フォントは源界明朝。岩に当たって砕ける波しぶきのようで気に入っています。


コンテンツを編む

ここまでご覧いただいて「なぜこいつはわざわざ表紙を編んだんだ?」という疑問を覚えられた方はいらっしゃいますでしょうか。さすがです。ほんとですよね。実はわたくし、本業としてpiggiesagogoという編み物やをやっております。



編み物のパターンを作っては、PDFデータにしたり本にしたりして売っております。上記2冊とか、




準新刊のこちらとか。『たぬきときつね』には、『狐のいない海』で使用したのと同じ狐パターンをおまけとして収録しております。しっぽを9本編めば九尾になります。ウェブカタログを置いておきますので、どうぞごひいきによろしくお願いいたします。


装丁と印刷所

さて、装丁まとめ企画ということなのですから最後に装丁についてもご紹介しておきましょう。別館1617はいわゆる同人誌印刷所さんを利用したことがございませんで、いつもは「ブックホン」さんに印刷・製本をお願いしています。同人誌的オプション豊富な印刷所さんではないので、装丁としては最小限、マットポスト表紙のペーパーバック仕様です。見返しにだけ色上質紙を挟みました。


まっしろでよく分かりませんが裏表紙。表紙の情報量が多かったので裏はシンプルにしてみました。表紙はマットPPコートで手触りが良くなりました。PPコートを掛けたのも今回が初めてです。嬉しい。







さいごに

「編集」の編の字を書いて編む。言葉の通り、ただの一本の糸だったものをちまちまと編み針を使って集め、引っかけ、まとめ、何らかの形あるものにしていく行為です。言葉を書くだけでなく、そこから湧いたイメージを改めて編み物にするということを今回やってみました。どのくらい上手くいったかについてはまだまだだなと思うところでもあるのですが、敢えてALL自給自足をしてみたことで書いたものに対する手触りや解像度が上がり、立体的な手応えが得られたような気もしています。


あとは狐がひとっとび、みなさまのお手元までちゃんと届けば良いなと思います。別館1617は文芸系同人誌即売会自体に初参加なので、どんな出会いがあるかとてもわくわくしています。どうぞよろしくお願いいたします。




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