宴の宵
すっかり酔っ払った遠子を目の端にとらえながら、菅流は内心ひやひやしていた。
都への貢ぎ物を横取りしているだけあって、瓶から汲み出される酒はいずれも口当たりやわらかく、品のいい香りがした。ほんのりと甘く、うそのように飲みやすい。飲んだことのない遠子が加減を知らなかったのも無理はなく、よくよく目配りしておくべきだった、と渋い顔をしながら盃を干す。
さすがに女たちはよく心得ていて、手拍子を打ちながら上機嫌で歌う遠子のまわりをぐるりと固めてくれていた。菅流の隣で目を細める七掬、もちろん菅流自身にとっても遠子はちんちくりんのがきでしかないのだが、はたから見ればいちおう年頃の娘なのだ。ところが本人は襟が乱れようが腹が出ようがおかまいなし、自覚がないにもほどがある。
「どうした、おぬしの口には合わんか」
「これでもものを見る目はあるつもりだぜ、うまい酒なのはわかる」
「失礼をした。しかし、これほどにうまいのは酒のためばかりではないなあ。よい夜だ」
遠子の昔なじみだという七掬は、日に焼け皺の刻まれた肌に朱をともして、すっかり相好を崩している。いかつい顔もこうなれば好々爺のありさまで、うっかりじっちゃんの顔を思い浮かべてしまった。酒が入るとどうも感傷的になっていけない。
そのときわあっと女たちの叫び声があがって、菅流もぱっと顔を上げた。さきほどまで調子っぱずれな一人舞台を演じていたはずの遠子が姿を消している。慌てて輪に駆け寄りのぞきこんでみると、本日の主役はまるいひざの上に抱えられてすやすやと寝息を立てていた。
「おまえなあ」
菅流が髪をかきむしりながら毒づくと、寝入っていたはずの遠子がぼんやりとこちらへ手をのばした。
「ふふ、たのしいねえ、すがる」
「あらあら甘えて」
女たちに生温かい視線を送られて頭を抱える。こいつはこれだから始末に負えない。伸ばされた手をいくらか強引に引いて抱きかかえ、どこで寝かしつけてやったものか確認してから立ち上がった。
遠子が目を伏せていたり、おとなしくしていると面影がよぎる。なら、抱え込んで見えないようにしてしまえばいい。
やはり血は争えないのだ。隣どうし並んでいたときはあまり似ていないように思ったが、遠子はたしかに、象子の血縁なのだった。
首にまわした遠子の腕が、菅流の肩をぎゅっと抱きしめる。
(勘弁してくれ)
女たちに先導されて、複雑に入り組んだ岩城のなかをどすどすと奥へ進んでいく。やがてたどりついた寝床がふかふかなのをいいことに、菅流は遠子を手荒く放り投げたのだった。