幕間 ロビンのお仕事
今日も今日とて、魔法使いの家にはさまざまな手紙が投げ込まれる。
出不精のくせにどこで恨みを買ってくるのか、この家にいるとトラブルには事欠かない。
もはや確認する気も失せるほどの苦情の数々に、安請け合いした仕事や借金の督促のたぐい、果てはなぜか恋文までが日々ぞくぞくと寄せられる。そのすべてに目を通すのはロビンの仕事だ。気の滅入る作業だが、これだけはロビンがやらなければならない事情があった。
イグニスが珍しくまともにお偉方の召喚に応じ、何日か家を空けていたときのことである。
たった数日にもかかわらず郵便受けは満杯、入り切らなかったものはドアや窓のすきま、さらには煙突から投げ込まれたものまであり、暖炉にはちょっとした山ができていた。どんなに憎くても家に落書きしていかないあたりに、あくまで正当に訴えようという相手の矜持を感じる。
折しも季節は冬、その紙束をイグニスは嬉々として火にくべた。「面倒だからいっそ焚きつけにしてやろう」というわけである。
その瞳の爛々と輝くようすに悪い予感しかなかったが案の定、炎は紫色をまとって噴き上がった。ぶつぶつと不穏な声を発するありさまからして明らかに呪いである。
ロビンの血の気が引いた。
本人は手を叩いて喜んでいるし、流れ弾ならぬ流れ呪いが飛んできたら見習いのロビンなどひとたまりもない。乏しい知識を総動員して防御の構えをとったところに、暖炉がひくりと痙攣した。
ほんとうに、嫌な予感とは当たるものだ。〈火の手〉は、ついに堪えきれなかった。
『へーくしょい!』
爆音とともに家中に暴風が吹き荒れた。ありとあらゆるものが宙を舞い、呪いの炎もどこかへ放り出されていく。ロビンは頭を抱えて伏せていることしかできなかった。
やっとのことで風が落ち着くと、家のなかは惨憺たる有様。
「派手にやったなあ」と大笑いしている師匠に対し、怒り狂ったロビンは敵わないと知りつつ火かき棒を振り上げた。案の定かすりもしなかったが、手負いの獣のように肩で息をする弟子に恐れをなしたイグニスは「呪いで勝手に遊ばない」とまじめな顔で約束したのであった。
かくして、この家に届く手紙や郵便物の類はすべてロビンの検閲を通る運びとなったのである。
――嫌なことを思い出してしまった。
はあ、と溜息をつきながら、ロビンは腰を浮かそうとする師匠の肩を押さえつけた。仕分け済の紙束をドンと机上にのせると、ファゴとファルが申し合わせたように両脇をかためる。
「くそ、みんなグルなのか」
「自業自得です」
イグニスはとうとう観念した。大きな体を屈めて書類に目を通しはじめたのを見届けて、ロビンはお茶の用意をしに立ち上がった。
fin.