最強のふたり
6
果たして当日、盗賊団はキースたちの前に現れた。まだ表立っては出てこないが、ついてくる気配はしている。
「朝も早くからご苦労さまっすね」
オリバーは落ち着いた様子で手綱を握っており、キースは荷台をたしかめるふりをして合図を送った。入り口には行く手を示す人物の像と渦を模したレリーフで飾られた巨大な門。その向こう側に、石の柱が二列、ずらりと並んで続いている。
門をくぐり、馬車は渓谷に入っていった。早朝の渓谷はまだ暗く、キースは馬車の位置を知らしめる意味もあってランタンを灯す。不意に身体が引っ張られるような感じがしてあたりを見回すと、暗がりにぼんやりとうかぶ列柱が疾走するような速さで後方に流れていくのが見えた。
「これか」
「坊っちゃん、初めてでしたっけ。俺もこないだびっくりしたばっかですけど」
馬たちは変わらずのんびりと歩みを進めている。これがファリヤの風廊の時の流れなのだった。
次第に朝の光が谷あいにも届いて、見上げればちらちらと光が反射するのが見えた。これは仲間内の合図、高所部隊は各々が手鏡を持ってそれぞれの位置を知らせる手はずになっている。服装はキャスリーン提供の砂色の生地で統一し、頭まで覆っているので岩壁と見分けがつきにくいのだ。
いまのところ順調、静かすぎてこわいくらいだ。
ダンの見立てによると、襲撃を受けそうな場所はもうまもなくだ。柱列の幅がしばらく狭まり、やがて開けた。
すこし広くなった薄暗い谷底に、人影の一団がぼうと浮かび上がる。
「ここを通るには、通行料をいただいてましてねえ」
緊張がはしった。湾曲した岩壁にはさまれて、その声は妙に響いて聞こえる。音が回り込んでくるので、位置がつかみづらい。
「いくらだ」
キースは演技でなく、硬い声で応じた。ここでしくじるわけにいかない。真実緊張して声が震える。
「いくら? いくらって言いますか。まあ、積荷ごとまるっと置いてってくれりゃ、命まではとりませんよ」
たちの悪い笑い声がざわざわとあたりに響く。オリバーが小さい声で「きもちわる」と呟いた。
「これは私の大事な商売道具だ、生活がかかっている。もうすこし負けてもらえないだろうか」
「なにいってんだ」
ドン、と音がして、馬が棹立ちになる。足元の地面を撃たれたのだ。ガシャガシャと落ち着かず、それでも駆け出さずにこらえるかれらをなだめながら、キースは冷静に状況を分析する。威嚇とはいえ無駄撃ちだ。銃弾だって、そう安く手に入るものではない。
(やっぱり、ただの盗賊じゃないな)
とにかくおびきよせることだ。キースは気丈な商人のふりをして演技を続けた。
「お前たちの喜ぶような品は積んでない。これは都のお嬢さんたちを飾る衣装だ。そんなものまで欲しいのか」
これはキャスリーンの案。積荷の価値を、自分たちで確認するように仕向けるのが狙いだ。
「欲しいかどうかは俺たちが決める」
そう言って、周囲をぐるっと取り囲まれた。
かかった。
オリバーがうなだれるふりをしてニヤニヤしているのを横目に見ながら、キースは天を仰いだ。
ちか、ちか、と光が反射する。
盗賊のひとりが荷台に近づいた。幌を持ち上げようと手をかける。
刹那、ドン、という音とともに荷馬車の屋根を銃弾が突き抜けた。
反撃の合図だ。
高所から雨あられと矢が射掛けられ、盗賊たちは一気に浮足立った。荷馬車を覆っていた幌を一斉に跳ね上げて、砂色の衣装をまとった若者たちが躍り出る。得物は短剣に棍棒に鉄鍋、拳だけという者もいて、武器に頼らないぶん滅法強かった。相手は銃を持っていたが、接近戦ではこちらのほうが有利だ。急所ははずし、手足の自由を奪って行動不能にしていく。
高所から滑り降りてきたダンが、
「アタマをおさえろ」
と指示をとばす。周囲の仲間たちが次々と復唱した。これで全員に伝達が行き渡るうえ、こちらの首領が誰なのかわからなくする効果もある。
乱戦のさなかで、キースは荷台の影から弓を引いた。もともと狩りは得意だ、銃を持つ腕を狙う。盗賊たちも最低限の防具はつけていたが、ここまでの反撃は想定していなかったのだろう、身軽さを重視した薄い防御では、至近距離から放たれる矢は防げない。
馬たちは地に伏せ、天然の鎧で身を守っている。オリバーは馬具をはずしながら、キースを守って短剣で応戦した。喧嘩慣れしているところは、ダンの仲間と大差ない。二人は御者台から一歩も動くことなく、ひたすら防戦と援護に徹した。
まさに、戦闘というより喧嘩だった。早い段階で腕を傷つけられ、銃を構えることがむずかしくなった連中を中心に武器が拳に切り替わり、あちこちで殴り合いが起きている。ここまでくると、盗み云々というよりもはや面子の問題なのだろう。人数ではこちらが上回っており、進路も退路も塞いでいる。無闇に逃げ出せば時空の渦に飛ばされてしまうとわかっているので、もとより彼らには戦闘続行か降伏しか選択肢がない。
なかでもやたらと動きの鋭い者がいて、これにはダンの仲間たちも数人がかりで手を焼いていた。かかっていったはしから投げ飛ばされる。おそろしく体術に長けており、なにゆえ盗賊などに身をやつしているのか不思議なほどだった。敵味方入り乱れて矢を射ることもむずかしい。
気がつけば、盗賊の大半の捕縛がすんで、乱闘はその一角のみになっていた。
「敵ながら惚れ惚れしますね」
珍しくオリバーが人を褒めている。おそらく、彼が首領だ。キースも心から頷く。
しばらくそちらに気を取られていたので、荷台でうごめく影にはなかなか気が付かなかった。
「勝った?」
ひょこ、と顔を出したのは、ひとつにまとめた栗色の髪。
あろうことか、クロエが隠れてついてきていたのである。
「うわ、お嬢さんなにしてんすか」
慌てて頭を低くさせたオリバーはまだましで、キースは黙ったまま額を押さえて動かなくなってしまう。
「ちょっと、坊っちゃんまで思考停止しないでくださいよ」
「頭が痛い」
「そりゃそうでしょうけども」
それでも、もう終結は目前だ。盗賊の首領を捕縛できれば、あとは……
そのとき、轟音があたりをつんざいた。
「ちっ、素人が」
ダンは耳を塞いで、歯噛みしながら音のほうを振り返った。こんなところで爆発など起こすまいと高をくくっていたが甘かった。追い込まれて焦ったのだろう、自分たちの目を盗んで仕掛けた者がどこかにいる。
ゆっくりと石の柱が倒れ、若者たちが悲鳴とともに飛び退く。爆発は小規模ながらも連続して、そのたびに岩壁がびりびりと震えて砂礫が散った。
このあたりの岩は砂礫を押し固めてできたものだ。爆発など起こせば、崩壊するのは目に見えている。
(やっぱりこのへんの人間じゃねえな)
確信を深めつつ、馬車のほうを見やる。作戦の指揮は自分がとっているが、本来のリーダーはキースだ。うっかり死んでないだろうな、といまさら心配になった。
そして仰天した。
見慣れた栗色の髪。なぜクロエがここにいる。
ズン、とさきほどとは違う音が響いた。地響きに似て、あたり全体から音がする。
嫌な予感がした。
「崩れるぞ!」
渾身の力をこめて叫ぶと、ダンはさらに手近にあった鉄鍋を岩に叩きつけて打ち鳴らした。誰もがはっと振り返る。オリバーがこちらを見たのをみとめて、ダンは懇願するように叫んだ。
「逃げろ!」
オリバーは素早く首肯すると荷台の向こうに消え、まもなく馬が駆け出していくのがわかった。岩壁に亀裂が入り、耐えきれなくなったところから崩れ出す。もう、敵も味方も関係なかった。この狭い谷で、どうやって助かるかが問題だ。最悪、時空の渦に身を投げるしかないかもしれないが……
「こっちだ!」
仲間が呼ぶ声がする。ダンは全力で走りながら、心の中で願った。
(クロエをたのむ)
「お嬢さん、坊っちゃん、とっとと馬に乗ってください、ここは崩れます」
オリバーの切羽詰まった様子に、二人は黙ってしたがった。馬車ははずしているが、鞍はつけていない。ただ、そのうち一頭はリューンだ。キースはクロエを前に乗せ、なんとか背にしがみつく。
「お前はどうする」
「あいつら置いてけないでしょう。とっとと行ってください!」
そう言って強く鞭を入れた。弾かれたようにリューンが走り出す。手綱もなく、振り落とされまいとしながら去っていくあるじを見送って、オリバーはもう一頭の馬にまたがった。
「たのむぜ相棒」
そう声をかけて、逆方向に走り出す。向こうでは、さっきまで喧嘩していた者たちがひとかたまりに身を寄せ合っている。
(荷台ひっぱってったら少しは足しになるかな)
そんな考えも頭をよぎったが、その前に死ぬのがオチだと気づいてやめた。崩壊した岩のかたまりは、さらに崩れて砂礫に姿を変えながら、いやにゆっくりとこちらへ流れてくる。
キースとクロエは、気がつくと真っ暗闇のなかにいた。
あたりに漂う湿った土の香り、ホウホウと鳴く鳥の声。目がなれてくると木々に囲まれているのが見えて、そこが夜の森だとわかった。
制御を失ってやみくもに駆け出したリューンは、ただしく広場の出口へ向かった。そのまままっすぐ進めればよかったが、危うく落っこちそうになったクロエをキースが支えたその動きが合図になって、進行方向が少々ずれた。かれは流れからはずれ、頭から突っ込んでいった。
時空の渦の中へ。
それからは天地も左右もわからず、渦に巻き込まれた二人と一頭は目を回したままどこかへ放り出されたのである。
クロエもすぐ近くに横たわっていて、リューンは少し離れたところで湧き水に頭を突っ込んでいた。とにかく全員揃っていることに安堵する。
(いまはいつだろう)
ダンの話では、帰れないほどの距離に飛ばされることはないということだが、問題は時間だ。みんなどうなっただろう。
オリバーは。
ダンは。
他の仲間達や、あのおそろしく強い男は。
もどかしい気持ちのまま、手近な枝を引き下ろして屋根代わりにし、身につけていた袋から火打ち石を取り出した。あたりに転がっている枝をかきあつめ、太いものには小刀でささくれをつけて、大きいものはへし折る。
そうやって焚き火をこしらえると、なんとか人心地がついた。
クロエはまだ気を失っている。明るくなるまでは身動きすることもかなわず、キースはまんじりともせずに炎を見つめた。
そして場面は冒頭に戻る。
リューンを借りて眠りについてからしばらく、寝返りをうったクロエは後頭部の違和感で目が覚めた。
「うーん」
寝ぼけたまま手をやると、犯人はいつもつけている髪飾り。さっさとはずして寝なおそうかと思ったが、そこではっと思い出した。
まだあたりは暗いまま、キースは熾火のむこうで腕を組んだまま舟を漕いでいる。起こすのもかわいそうだったが、早いにこしたことはないと肩を揺すった。
「ねえ、起きて。ねえってば」
キースはひどく険しい顔で目を開けた。
「うん? なんだ」
「疲れてるところごめんなさい、でも、大事なことを思い出したのよ」
「ふうん」
まだ寝ぼけている。ちょっとかわいいとか思っている場合ではない。
「助けを呼びましょう。私、すっかり忘れてたわ」
「たすけ?」
クロエは自分の髪飾りを指差す。透き通った紅い石が埋め込まれた、クロエにしてはめずらしい装飾品だ。
「これ、これをはずしてちょうだい」
「自分でできないのか」
「自分でやったら意味ないのよ!」
その剣幕に負けて、キースはしぶしぶ髪留めに手をかける。よく仕組みがわからなかったので、とりあえず輪の部分にぐっと力をこめると、ぱちりと音がした。
と、焚き火が一瞬で燃え上がり、人の背丈ほどの高さになった。腰を抜かして見上げていると、何やら炎の向こうから声がする。
「なんだこれ」
「魔法よ」
クロエは神妙につぶやいた。
いつものように暖炉の前で郵便物の仕分けをしていると、〈火の手〉が急にこちらへ伸び上がり、ちょいちょいと肩を叩いた。
「どうしたの」
珍しいこともあるもんだな、とロビンが振り向くと、どうも様子がおかしい。
炎の真ん中がぽっかりと黒く口をあけていた。のぞきこんだ先には人影らしきものが見える。
こんなことは初めてだったが、ロビンにはピンときた。こうしちゃいられない。
ロビンは慌てて立ち上がり、勢いで椅子を蹴倒した。
「師匠、門が開いた! クロエになにかあったんだ!」
寝室の扉を開けるとすぐに、ひょろりとした姿が顔を出した。
燃えるような赤い髪、魔法使いイグニスと、その弟子ロビンが動き出す。
焚き火のなかから人が歩み出てきて、キースはふたたび度肝を抜かれた。
「ロビン!」
クロエはためらいなくその人物に抱きつく。クロエよりもまだいくらか幼いその少年は軽く応じてから、
「ちょっと、何があったんだよ」
と問いかけた。
直後、さらにもうひとり大きな影が抜けて出て、キースを一瞥するなり
「燃やしていいのはこいつか?」
と急に物騒なことを言い出した。クロエがあわてて否定する。
「ちがうの、この人は味方。私たち、ファリヤの風廊から飛ばされてきちゃったのよ」
「チッ、それだけか」
キースはほっと胸を撫で下ろす。盗賊よりもよほど危険な相手を呼び出したらしい。
「それだけといえばそれだけだけど、あっちでは大変なことになってるわ。力を貸してほしいの」
クロエが必死に取り縋る。
「ふん。俺のひまつぶしくらいにはなりそうか?」
「きっとね」
「しょうがねえ、嬢ちゃんの頼みだ、聞いてやろう」
彼はどっかと座り込んだ。ロビンと呼ばれた少年は苦笑している。
我に返ったクロエは、明らかに混乱している様子のキースに、ふたりを紹介した。
「魔法使いイグニスと、その弟子のロビンよ。二人のことは、昔からよく知っているの」
「はあ……」
キースはもはや感心するほかない。クロエの顔がここまで広いとは、さすがに予想していなかった。
一方、ダニエル達は落石に巻き込まれた人の救助にあたっていた。
おそらく、砂に流されて飛ばされてしまった者もいるだろうが、それならまだましだった。ダンの仲間は統率がとれて身体も自由だったのでほとんど逃げ切れたものの、盗賊たちはそうはいかなかった。縛り上げられて逃げ遅れた者もかなりいる。悪人だと割り切ってしまえばそれまでだが、ただ見捨てるのはあまりに後味が悪い。敵味方関係なく、突き出した手足を頼りに掘り起こす作業が続いた。
そこへ、場違いなほどのんびりした男の声が響く。
「おお、やってるやってる」
ははは、と大きな口を開けて笑うのは背の高い男で、必死に砂を掘り返す男たちは疑念と苛立ちをこめて彼を睨んだ。
「まあそうイラつくな。一生懸命やりゃいいってもんじゃない。人の助けはありがたく受け入れなさいってな」
そう言いながら、おもむろに指を鳴らした。その指先に小さな火がともる。
「おっ、お前いい風を持ってるな」
いきなり手をひっぱられて、キースは危うくバランスを崩す。後ろでロビンがちいさく「すみません」と頭を下げた。
あのあと、キース達は炎の門を通って一度イグニスの家に、それから魔法の旅行鞄を通ってこの場所に戻ってきた。
「こんなに便利なものがあるなら、もっと早く相談すればよかった」
と頬をふくらますクロエに、
「本当はそんなにホイホイ使っていいもんじゃないからね」
とロビンがたしなめる一幕があった。
イグニスはキースから風のちからを引き出した。指先の炎はみるみるふくらみ、渦をはらんだ火の玉と化す。
「ちょっと耳塞いでろよ」
言うがいなや、その火の玉を砂礫の山に投げつけた。
「なにするんだ」
「まあ見てろ」
ぶつかった火の玉は、気の抜けたような音をたてて軽い砂ばかりを吹き飛ばし、あとには重たい塊だけが残った。そのなかには生き埋めになっていた人の身体も含まれている。悲鳴が一転、歓声に変わった。男たちがぐったりした仲間のもとへ駆け寄る。
「お前ら、俺がなにもかもいっぺんに吹き飛ばすと思ってただろう」
「思ったわ」
「思いました」
ただひとり、キースは沈黙を貫く。
「しかし、ひと暴れできると思ったら人命救助とはな」
つまらん、と言いながらもう一つ小ぶりな火の玉をこしらえると、イグニスはにやにやしながらふっと吹き送った。
「あ、嫌な予感がする」
ロビンがつぶやくが早いか、火の玉は砂を吐いて咳き込んでいる男を軽々拾い上げた。イグニスの指の動きに合わせて、男の身体がくるくる回る。
「師匠!」
周りが止めるのも聞かず、イグニスはもう一人拾って大笑いしている。さらには、爆薬を見つけ出して勝手に花火を上げ始めた。人を打ち上げないだけまだマシというものである。
「これじゃあどっちが悪党だかわからないわね」
「師匠は悪党っていうより人でなしなんです」
ロビンは己の無力さにしょんぼりと肩を落とした。
命の危機をともに乗り越え、新たな共通の敵(凶悪な炎の魔法使い)も得て、ダンの仲間と盗賊団には友情のようなものが生まれつつあった。
それでも用心に越したことはなく、盗賊はひとりを除いて全員が縛り上げられた。唯一自由を保っているのは例のおそろしく強い頭領の男で、名をシグルドと言った。おそらく年齢はキースよりも少し上、二十代なかばといったところ。おもったよりもかなり若い。いまは主にダンとオリバーが、降伏というより仲間にならないかと説得にあたっている。
「こんなとこで爆薬使うなんて、自殺行為もいいとこだぞ」
「あんたのとこの上司、それを承知で爆薬もたせたんじゃないすかね、みんな一緒に生き埋めになっちまえば足もつかない。死人に口なしってね。あんたらはじめっから切り捨てるつもりだったんすよ」
「誰がうしろについてんだか知らねえが、あんなに強いんだからもっとましなとこあるだろう」
「そうっすよ、あんなにかっこいいのに、もったいないっすよ」
だんだん話がそれている気がするが、やり方は間違っていないらしく、シグルドはじっと考え込む素振りだ。口だけは自由な周りの男たちも、だんだんと心を動かされはじめる。
「アニキ、俺たち上がどんなやつでもついていきますよ」
「金さえ手に入ればよかったんだ、死ぬ目にあうなんて聞いてねえ」
「こいつらのほうがよっぽど骨がありますよ、もういいんじゃないすか」
彼らの声に、シグルドは肩の荷がおりたようにほっと息をついた。
「悪かった。ありがたく世話にならせてもらう」
ダンとオリバーは子どもみたいに飛び上がって喜んだ。彼らにとってすでに、シグルドはかっこいいヒーローなのだ。
「よろしく!」
「ああ」
固く握手が交わされたところへ、キースは静かに割って入った。服装は変装のそのままだったが、背筋をのばし、落ち着き払って、いかにも貴族らしく歩み寄る。
「グラスランド伯の長男、キース=クローバーです。あなたには僕からも、頼みたいことがある」
シグルドはその言葉に、黙って頷いた。