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タニオリ島収集記録

tamon store/多聞

タニオリ島収集記録

九月二十六日 薄曇り
豪快に割られたかぼちゃが道端で蒸されていた。手を伸ばす子供を追っ払いながら、調理人がふたを開ける。かぼちゃの煮物とは明らかに異なるどこか青臭いような匂い。待ち構えていた人々が我先にとかぼちゃに手を伸ばした。
甘味が不足しているタニオリ島では、蒸しかぼちゃをおやつ代わりに食べるらしい。そろそろ日も暮れようかという時間になると、どこからともなく人が集まってくるという。調理人の言葉を書き留めていると、食べないのか、と促されてしまった。現地の食べ方に倣って思いっきりかぶりつく。かぼちゃ本来の野性的な甘みが舌に届いた。少し熱い。
もう一個どうだ、という調理人の厚意を断腸の思いで断る。そろそろ村外れの博物館に行かなければならない。紙片に記した蒸しかぼちゃのレシピを手に立ち上がる。人生初のフィールドワークはまだ始まったばかりだ。

村外れの博物館の展示は想像以上に充実していた。百二十年前に使われていたという木製のスプーンを眺める。先が少しギザギザとしているのは、かぼちゃを掘りやすくするためだろう。銀製へと変わる過程も興味深い。火力の安定に伴い素材も形も変わっていったのだろうか。
館内を一回りする頃には、タニオリ島の衣食住がすっかり頭に入っていた。特に印象に残ったのは葬礼用の衣装だ。最後にもう一度、と黒いマントに顔を近づけると、噎せ返るような野生の臭いがした。
「それは羊の皮を使用しています」
研究者のあなたならご存知でしょう、という癖のあるイントネーションに振り向く。声の主はどんぐり眼の青年だった。どうやら博物館の学芸員らしい。
資料収集を申し出る前に、こちらへ、と促されてしまった。青年の背中を追いかけるように博物館の奥へ向かう。

厳重な扉の先に見えたのは、様々な表情の仮面だった。やたら大袈裟にデフォルメされた顔のパーツは、不気味さを通り越していっそユニークな印象を受ける。
「何か気付きませんか」
笑っているようにも泣いているようにも見える顔の群れ。その中で一つだけ表情の判別がつく仮面があった。ああ、口がない。
「その仮面はある部族の宝だったと言われています」
青年の声に振り向く。泣き笑いのような表情。その部族はどうなったのですか、といくら尋ねても青年が口を開くことはなかった。

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多聞

なんかちょっと変だな、みたいな短編を書くのが好きです。



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